マインドフルネスってなに?
この質問に答えるのは、なかなかに難しいです。
マインドフルネスはスポーツと似ていて、実際に体験してみないとよくわかりません。
言葉で説明するのが、難しいのです。
この記事では、その難しいミッションに挑戦してみます。
マインドフルネスの定義
まず、マインドフルネスの定義から見ていきましょう。
マインドフルネスの第一人者である、マサチューセッツ大学のジョン・カバット・ジン教授による、マインドフルネスの定義があります。
教授は、長年仏教瞑想にとりくみ、その経験を活かし、1970年代後半に医療用のマインドフルネスプログラムを立ち上げ、大きな成果を上げました。
マインドフルネスが、世界に広まるきっかけを作った人物でもあります。
教授によるマインドフルネスの定義は、
今この瞬間に、価値判断することなく、意識を向けること
です。
これを聞いただけでは、よくわかりませんよね。
一つ一つ、解説していきましょう。
今この瞬間
今この瞬間とは何かというと、過去や未来ではない、今現在のことです。
当然ですが私達は、過去や未来ではなく、今に生きています。
しかし、頭の中で考えていることは、過去や未来のことが多いのです。
去年のこと、昨日のこと、数分前にあったことなどを思い出し、そのことを考えています。
または、すぐ後の予定、明日のこと、来年のことなどを予測し、考えています。
実は私たちは、一日のうちかなり多くの時間を、過去を思い出したり、未来を予測することに使っています。
今に生きていながら、頭の中は、過去と未来でいっぱいなのです。
過去を思い出したり、未来を予測することは、別に悪い事ではありません。
むしろ、生きていくためには必要なことです。
しかし、あまりやりすぎると、実際に生きている今この瞬間を、感じられなくなります。
今この瞬間に、意識を向けられなくなるのです。
例えば、人と話しているのに、この後の予定が気になって、相手の話をしっかり聞くことができない。
せっかく読書をしているのに、昨日のことを思い出して、気が散って読書に集中できない。
お昼ご飯を食べているのに、午後の予定が気になって、ほとんど味わっていない。
皆さんも、そういうことはよくあると思います。
過去や未来に意識を向けすぎると、この状態がひどくなっていきます。
すると、今に意識を向けられなくなり、今を生きることができなくなってしまいます。
これは、結構マズい状態です。
今、自分がリアルに見て、聞いて、感じていることに意識がない。
何をしてもリアルさがなく、実感がなく、感動もない。
時間が飛ぶようにすぎ、人生がスッカスカの空虚なモノになっていきます。
心当たりがある方もいるかもしれません。
マインドフルネスでは、その状態を修正していきます。
過去や未来ではなく、今この瞬間にしっかりと意識を向け、今この瞬間を生きる力を、瞑想で鍛えていくのです。
価値判断することなく
毎日私達は、様々なモノを見たり、聞いたり、感じたりします。
人の話を聞いたり、文章を読んだり、映像を見たり、なにか作業をしたり。
そして、その際に接した対象に対して、なんらかの価値判断をしています。
コレは良い、コレは悪い
コレはきれい、コレは汚い
コレは上手くいった、コレは失敗した
このような価値判断を、ほぼ反射的にやっています。
自分の頭の中の思考や感情に対しても、同じことをやっています。
この思考はダメだ、この思考は良い
この感情はダメだ、この感情は良い
このような価値判断は、なんとなく無自覚にやっていることがほとんどです。
これをやりすぎると、自分自身や他者、あらゆる物事に対して、いつもダメ出しをしているような状態になってしまいます。
ネチネチした嫌味な上司に、いつも見張られているようなものです。
その状態は、多くのストレスを引き起こします。
いつも自分や他者にダメ出しを続けていれば、とうぜん頭の中はイライラや不快感だらけになってしまいます。
マインドフルネスでは、このような反射的な価値判断をせずに、そのままシンプルに物事を見る力を鍛えていきます。
それができると、余計な怒りや不快感を感じ、それにとらわれてしまうことが減っていきます。
思考や感情にとらわれない、クリアな意識が育っていくのです。
そして、自分の先入観や思い込みにとらわれず、物事を正確に見て、理解できるようになります。
意識を向ける
マインドフルネスでは、今この瞬間に、実際に見ているもの、聞いているもの、感じていることに、意識を向けていきます。
そんなこと、普段からやってるよ!
そう思うかもしれませんね。
しかし、実は私たちは、それがあまりできていないのです。
私達の頭の中は、過去や未来のことでいっぱいです。
または、目の前に実際あるものではなく、頭の中で作ったイメージや思考に、意識を向けていることが多いです。
例えば、自宅にいながら職場のことを考えたり、職場にいながら自宅のことを考えたりしています。
そのため、今この瞬間に、実際に目に見えていること、耳で聞こえていること、五感で感じていることに、意識が向いていない場合が多いのです。
例えば、考え事をしながら家への帰り道を歩いていたら、いつの間にか家についていた、ということはありませんか?
これは、考え事に意識が向いていて、目に見える帰り道の景色には意識が向いていなかった、ということです。
他にも、スマホを見ながら食事をしていたら、あまり味を感じずに、いつの間にか食べ終わっていた、ということはありませんか?
これも、スマホに意識が向いていて、味に意識が向いていなかった、ということです。
私達はかなりの時間、そのような状態になっています。
この状態があまりに長いと、様々な弊害があることがわかっています。
- 思考過多になり、脳の疲労やストレスが増す
- 一度ネガティブな思考にとらわれると、抜け出せなくなってしまう
- 焦りや不安、憂うつ感にとらわれやすくなる
- 今やっていることに集中できず、すぐ気が散ってしまう
- 注意力が低下する
- 現実感がなくなり、地に足がつかない、落ち着きのない状態になる
などです。
マインドフルネスは、このような状態から抜け出すトレーニングです。
今この瞬間に、価値判断せずに、今自分が見ていること、感じていること、考えていることに、ありのまま意識を向けて、自覚的に観察します。
マインドフルネスには、様々な瞑想テクニックがありますが、全てはこれをやるためのものです。
この方向性を覚えておいてください。
そうすれば、迷わずにマインドフルネスのトレーニングができるでしょう。
ちょっと批判的になってしまいますが、マインドフルネスのブームに乗って、マインドフルネスではないのに、マインドフルネスを語っている講座も多くあります。
一般の方がそれを見分けるのは、なかなか難しいです。
そんな場合は、この方向性から外れていないかをチェックしてみてください。
今この瞬間に、価値判断せず、ありのまま意識を向けるトレーニングに、なっているでしょうか?
マインドフルネスと似ているけど違うパターンとしては、
- 今この瞬間に感じていることではなく、頭の中で意図的にイメージを作り、そこに意識を向けている
- 自分の感じていることや考えていることを、意図的にコントロールしようとしている
- 気持ち良くなることをメインの目的にしている
などです。
もちろん、そういったメソッドはダメだ、というわけではありません。
有効なメソッドもたくさんあります。
しかし、マインドフルネスの定義から外れているので、少なくともマインドフルネスではありません。
この辺りがわかっていれば、マインドフルネスを語る別のメソッドなのか、本物のマインドフルネスなのかを、見分けることができるはずです。